アーカイブから紡ぎ出される知「第一部」
講演1:「3次元アーカイブの可能性」
北郷 悟:東京藝術大学副学長, 美術学部 彫刻科教授
3次元デジタルデータから忠実なる素材復元を行い、鑑賞者の「見る」だけではなく「質感に触れて感じる」などの、「芸術の素晴らしさを伝える」研究を紹介する。
展覧会の特色となるデジタル研究から生まれた成果は、『女』(東京国立博物館所蔵、重要文化財)から三次元データを取得し原寸大の新たな複製ブロンズを制作。本物の質感が感じとれる“触れる彫刻”としての試みたものである。これまでの表現制作の中から培った経験と感性を活用して完成された三次元デジタルデータは、アナログとデジタルを融合したこれまでにない優れたデータを生み出している。それらは専門の技術によって優れた収蔵品の芸術性を表現し「触れる彫刻」として実現したものである。3次元デジタルデータの可能性は、アーカイブのみならず教育普及利用としても大きなが期待が持てるものである。
講演2:「アートとアーカイブをめぐって」
四方幸子:文化庁委託メディア芸術コンソーシアム 構築事業企画ディレクター
デジタル・ネットワークの進展は、これまでの「アーカイブ」という概念を社会全般、そして芸術分野においても揺るがしつつある。現在ウェブ上で流通しているソーシャルメディア的な情報共有システムは、アーカイブを残す主体性やシステム自体のデジタル化による拡散を促進している。またメディアアートにおいては、従来の完成された「作品」という概念にとどまらず、ソフトやハード、インターネット環境に依存するもの、加えてウェブ上のシステムを利用する「プロジェクト」的な側面をもつものも多い。アーカイブ、というものの現在そして未来について、どのように考えていけばいいのかを、事例を挙げつつ検討したい。
講演3:「Linked Dataアプローチによる芸術情報統合の試み」
武田 英明:国立情報学研究所, 学術コンテンツサービス研究開発センター長
芸術情報を社会において広く共有して利用していくことは今求められている。しかし、日本においてはミュージアムの持つ情報は分散的かつ独自に管理公開されてきた。そこで我々はセマンティックWeb分野で発展してきたLinked Dataの手法を用いて、芸術情報を統一的に共有・利用できる仕組みの構築を目指している。本講演ではLinked Dataの役割、日本におけるLinked Dataの課題を踏まえて、我々のプロジェクトの現状を紹介する。
講演4:「アーカイブすることの意味」
長尾 真:国立国会図書館長
芸術作品やそれらに関する各種の資料をディジタルアーカイブすると何が可能であるか、アーカイブ化の価値はどこにあるかを問うことが 大切である。ディジタル化することによって、これらの文化・芸術作品をいろんな観点から類別し、関係する文献や他の情報と 関連づけることが容易になり、比較検討することができる。またこれらはいろんな観点から解体することができ、それらを1つ の作品に統合している目に見えない構造・意味を追求することができる。異なった概念に属す作品の部品群や新しい部品を導入し、こ れらを新しい動機、新しい創造的観点から統合することによって新しいユニークな藝術作品に作りあげることができる。こう いったことについて考察してみたい。