五線ノート(表紙に“Music Note”と印刷されている)
佐藤明子様ご寄贈
資料概要
鬼頭恭一が応召後に所持していたノート。
作品として演奏可能な曲、曲のスケッチ、旋律の断片などが残され、短い断片にも鬼頭恭一の楽想、傾向等の特徴が現れている。以下、各画像について簡単に紹介する。
画像No.35:冒頭に「Allegro Moderato」と記され、ニ短調の曲が書き始められるが、途中で止まっている。
画像No.36:右ページ「Allegretto」と指示された旋律楽器とピアノのための小品。「19.7.6築城航空隊にて」と作曲年月日と配属先が記される。
画像No.38左ページまで4ページにわたる。
本学では平成27年7月27日、音楽学部第1回オープンキャンパスにおいて「戦後70年 夢を奪われた音楽学徒 東京音楽学校本科作曲部一年で出陣した二人の作品演奏会」と題し、奏楽堂にて、澤和樹のヴァイオリンと渡邊健二のピアノにより公開演奏され(https://www.geidai.ac.jp/news/2015071033502.html#sengo)、平成29年7月30日「戦没学生のメッセージ」の演奏会にて澤和樹のヴァイオリンと迫昭嘉のピアノにより演奏された。タイトルが付けられていないため、便宜上、冒頭に記された《アレグレット》(「やや速く」の意)をタイトル代わりに使用した。(鬼頭恭一『無題(アレグレット ハ長調)』の楽譜浄書はこちら)
画像No.38右ページ~No.39左ページまで:38ページは、五線を2段あけて3段目から八分の三拍子で右手パートのみ書かれている。39ページに進むと、冒頭の画像No.35の構想と共通の音を持つと思われる旋律が右手に現れ、それが左手にも引き継がれるなど鬼頭の中でいくつかの展開の可能性が練られていたことを思わせる。
画像No.40〜46は白紙。作曲者は何か考えがあって空けておいたのだろうか。
画像No.47にはハ長調、四分の四拍子、行進曲風の力強い曲想に「神州むさうのあめつちと(無双の天地と)」の歌詞が見える。終りの部分に繰り返しの指示「1.2.3.4」があるが、実際の歌詞は1番のみ記され、しかも2番以降の歌詞がノートの他のページにも記されていないことから、完成譜が存在するとすれば、別の五線紙に浄書された可能性が高いと考えられる。歌詞が持ち込まれ作曲を依頼されたのではないかと考えられているが、現在までに原詩、完成譜、演奏された形跡のいずれも情報未確認である。曲名が記されていないため、歌詞から採って《女子学徒挺身隊の歌》として平成29年11月23日、「戦没学生のメッセージ」のクラウドファンディングのリターンの一つ「アーカイブ推進コンサート」において、山下裕賀(メゾ・ソプラノ)と薮内俊弥(バリトン)の斉唱、松岡あさひのピアノにより音楽学部第二ホールにて演奏された。同じく画像No.47の右ページは、この曲の推敲に関わると思われる別案がいくつか書きつけられている。(鬼頭恭一『女子学徒挺身隊』の楽譜浄書はこちら)
画像No.48は、左右のページが鬼頭の歌曲《雨》にかかわる様々なスケッチと考えられる。右ページの下方は明らかに《雨》の冒頭だが、左ページにもこの曲の歌詞の一部分とその旋律が書かれている。ちなみに《雨》の完成譜はこのノートではなく別の五線紙に書かれ、原本は靖國神社遊就館が所蔵している。
ノートの最終ページにあたる画像No.49にはスコットランド民謡《アニー・ローリー》の旋律と部分的に和声づけが書かれ、右半分(裏表紙の裏)には海軍錨が描かれ、「鬼頭恭一」「三重空にて」「名古屋より」「昭和十九年三月」と自署され、名前のゴム印も押されている。ノート表紙裏の下方に、「製産者 島川弥三郎」のゴム印が押されている。
画像一覧
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